甘くて切ない


 木造アパートから、若い男女の諍いが聞こえている。
「だから、今日は旦那が一緒に行ってくれるって言ったでしょうが」
「なんでだよ!妻の通院に夫が一緒じゃなぜダメなんだ!どうしてだ!」
「アンタ今日幕府でスゲー大事な会議があるって聞きやしたぜ」
「そんなの……
「アンタがいなけりゃ近藤さんの付き添いは誰が行くんでィ」
「は、原田とか……山崎……とか……」
「ほーーーーうら誰もいやしねェ!近藤さんに不自由させてんじゃねェ、と俺は思いやす」
「うう……」
「公私混同は切腹ですぜ」
「総悟ォ……」
「はーい行ってらっしゃい!キヲツケテネー」
 ぐいぐいと玄関から黒い人を追い出しながら棒読みでドアを閉める。
 黒い人とは夫である土方十四郎だ。
 そんで夫を無理やり見送って一息ついているのが若妻・総悟である。
 なんやかやでいろいろあってやっと夫婦になった二人だが、住んでいるのは総悟が選んだボロいアパート。しかし産婦人科の病院が近く、近所の人たちもいい人ばかりだ。安くていいものがそろっているスーパーも徒歩圏内にある。
 本日は産婦人科に定期健診に行く予定だ。
 そう。総悟は妊婦である。

「って、すげーしつこかったんですぜ、あの人」
「やだねー諦め悪いオトコってやだねー」
 そんな総悟の隣には、今坂田銀時がいる。
 屯所から離れた所で暮らすこと、土方と二人暮らしのアパートには夫は仕事で遅くにしか帰ってこないこと、妊婦の安全は守らねばならないこと、などを加味し、土方の都合がつかない時には万事屋が出動する。
「まー頼まれなくても現れるのが銀さんですから?」
 総悟の、たいして重くもない荷物を持ってやり、車道から守るように右側を歩く。
「旦那は何でも手慣れてていいですねィ」
 何でも気軽に頼んでよ、と言われたので本当に頼んでしまう。
 ずうずうしいとは思いながらも、それでなくては土方は納得しないのでお願いしてしまうのだ。
「でも、いつもいつも、すいやせん」
「なーに言ってんの沖田くん!俺と君の仲じゃーん。何でも頼んでよ、銀さんは万事屋ですよ」
「俺もう沖田くんじゃねーですよ」
「土方くんって呼ばれたい?キャー、うそー」
「まあ旧姓ですしいいんですけど」
「でしょ?いーじゃん沖田くんを沖田くんって呼ぶヤツが一人ぐらいいても」
「そですね」
 こうして簡単に騙されるようにして、いつも付き添いを頼む総悟だ。
 そんでホイホイと依頼を受ける、いや依頼がなくても現れる銀時に、夫・土方はイライラムカムカしながら妻を託すのであった。

「なんだトシ、今日は総悟の検診じゃなかったか?」
「なんだ、近藤さんも知ってたのか」
「万事屋が言ってたぞ、嬉しそうに」
 土方は苦虫をかみつぶしたような表情になり、それを見て近藤は笑った。
「たまには休んで付き添ってやれよ」
「それができればとっくにそうしてるっつーの!」
「今日だって、誰と一緒でも俺は構わなかったのになァ」
「嘘つけ。幕府の妖怪みたいな連中に言い含められちまったら、真選組の行く末にかかわるだろ!」
「お前も仕事熱心なヤツだなァ」
 呑気に言う近藤に渋面を向ける。
「俺だって、俺だって付き添いたかったよ!俺の妻ですって顔して産婦人科の待合室で並んで待ちたかったよ!!エコーで我が子の姿を一番に見たかったよ!!!!!!」
 ぜーぜーはーはー言いながら主張する土方の姿は、限りなく哀れだった。
やっとの思いで帰ってきた屯所では、出迎える隊士たちにも勝手なことを言われる。
「副長、たまには病院付き添った方がいいですよ?」
「アパートの人は万事屋の旦那がパパだって勘違いしてる人もいるんですよ!」
「いろいろ言ってても、やっぱり本当の夫に付き添ってもらいたいんじゃないですかね」
「あーもう!!お前らうるせー!!!俺だって行きたいよ!行きたいけど仕事がある だろうが!!お前らでは無理な案件がたくさんたくさんあるだろーが!!誰か代わってくれるなら代わってくれよ!俺だって、俺だって……」
「トシうるさいぞ」
「副長、いいかげんにしてください」
 なんと哀れな夫・土方。

  「じゃあこれで。ありがとうございやした旦那」
「いやいや。いつでも呼んで」
 別れ際。小首を傾げる総悟に笑いを返して、銀時は踵を返す。
 総悟はエコーの写真を大切そうに両手で持っていた。
 あれを土方に見せるんだろうな、嬉しそうに。と思うとモーンとした感じになるけれど、一番に見せてもらったのは俺だからという優越感でなんとか乗り切った。
「あとはおふたりでドウゾ?」
 今夜、無理やり帰宅した土方が、写真を見て泣きだすことくらい判っている。そんで新婚さんの仲も深まるってやつか。
 銀時は深く息を吸った。
 それはそれで悪くない。
 総悟が幸せなら、いいんじゃないの。
 銀時は自らのお人よしに苦笑しながら、帰途についた。




20100919 itsukiyo


リクエストをいただきました。Kさま!ありがとうございます!!!
いつも良くしていただいてありがとうございます。それなのに
こんなに遅くなってしまって心から申し訳ございません!!!!
「耐え難くも甘く」の後日談です。
甘くなっているのか、土方さんが本当に可哀そうになっているのか疑問
ですが、精一杯がんばりました!捧げさせてくださーい!!!



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