えりまきと北風


「お使い行ってきやーす」
 ぱたぱたと、道場を出ていこうとする総悟の首根っこを掴む。
 小さな子どもを引き留めるのなんて、簡単なことだ。
「うー…」
 何をするんだとこちらを睨むまんまるな目。
「おい」
「何でィ」
「どこ行くんだよ」
「お使い」
「どこまで」
「角の豆腐屋」
「あっそ」
 なら近い。それなら大丈夫か、一人で行かせても。
「……離して」
「悪ィ」
 自由になった総悟は、不審げに土方を見ながら草履をはく。
 上から見下ろしながら、土方は付いていくと切り出すべきか迷っていた。
 一人で行けない距離じゃない。けれども。
「じゃあ、行ってきやすから」
 これ以上邪魔されてはたまらないと、そそくさと出て行こうとする総悟を、再び土方は呼び止めた。
「おい」
「………」
 しぶしぶ振り向く総悟に、ふわりと襟巻きが巻かれた。
 いつも土方が使っている、赤い襟巻きだった。
「え……?」
「寒ィから」
「………」
 びっくりしたように土方を見上げる。
 今日は朝から気温が低く、昼間になっても吐く息は白かった。
 稽古をしていれば寒さは感じなかったので、外に行くといってもさして気にしなかったのに。
「さっさと行って、早く帰ってこい」
「………へい」
 頷いて、今度こそ出発する。
 外に出た途端、風が頬を切るように鋭く、息を呑む。
 ちょっとそこまで行くだけなのだが、寒いものは寒かった。風にあたって初めて気付く。
 総悟は襟巻きに手をやり、鼻の所までずり上げた。

 息を吸うと、土方の匂いがした。
 襟元を包むものがあるというのは、随分と頼もしいのだというのはちょっとした発見だった。
 あたたかなそれを、巻いてくれたのは。

 総悟は道場の方に振り向いたが、玄関に土方はもう見えなかった。




20080308 itsukiyo


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