彼等二人で巡回するのが当たり前のようになっていたから、その光景はとても珍しかった。
「あれ、どうしたの沖田くん」
「旦那」
江戸市中を一人でぶらぶらしているその子を見つけると、すぐさま声をかけずにはいられない。
隊服は着ているものの、やる気がなさそうなのはいつものことだ。
しかしその横に常に張り付いているはずの目つきの悪い男が見あたらなかった。
「一人?」
「ええ。何か」
「珍しいじゃん。いつも一緒にいる怖いお兄さんどうしたの」
「いませんぜ。今日は別の奴と巡回でさァ。さっきまいてやりましたけど」
「気の毒な奴だねェ」
「大きなお世話でさァ」
涼しい顔で、でもよく見ればかなりの不機嫌な様子が見て取れる。
原因がはっきりしているだけに、銀時にはおかしくてたまらない。
ああ、この子は本当に。
「副長さんは出張?」
「あんな楽しいばっかりの出張なんざ、仕事とは言えませんや」
「ああ、接待かなんか」
「おかげでこっちはいつにも増して勤勉を強いられるんでさァ。迷惑な話ですぜ」
巡回の同僚をまいておいて、この口だから。
「ふうん。ねえ沖田君」
銀時は沖田の明るい色の髪の上に手を置いた。
「何です、旦那」
うざったそうにこちらを見ながら、しかし沖田は振り払うことはしない。
「甘いモンでも食ってかない?」
「・・・奢りなら」
「はは、いいよ。なんとこの銀サン、今日は少しくらいの甲斐性があるんだな」
ぽんぽんと頭を撫でて、銀時は笑う。
「勝ったんですかい?」
「いい感じにね。朝から並んだのが勝因かな。すげー出る台!」
引き際を間違えなかったので、懐が暖かい。たまにはこういうこともある。
「小手毬屋のクリームあんみつスペシャルにして下せェ」
「いいよ、何でも引き受けちゃうよ」
にっと笑いながら、銀時は右手を差し出す。
「行こ」
「・・・葛きりスペシャルもつけて下せェ」
沖田は口を尖らせながら、その手を取る。
「いいよいいよ。言いなり銀サンと呼んでくれ」
ご機嫌斜めの王子様の手を引きながら、ご機嫌最高潮の甘党の男は通りをどんどん歩く。
今頃苦虫を噛みつぶしたような顔で己の任務を遂行しているであろう黒髪の男の姿が頭をよぎったが、こんな子置いて留守にするのが悪い。
常日頃、彼がこの子を甘やかしてグダグダな様を見てきた銀時は、その様子をあきれ半分、ほほえましさ半分で見ていたが、今日はもう。
なんか、もう、仕方ないことって世の中にあるんだなあ。
これ、この子、構わずにいられないものがあるというか、しょうがないじゃん。
無理矢理の正当化もそこそこに。
こんな、外野の甘やかしは沖田の心をとろかすはずはないのだが、でもそれでもいいや、と銀時は思った。
ただ自分がこの子を甘やかしたい、そういうことなのだ。
そんで、甘味を食べて少し満足そうなこの子の顔を見て、後でそれを知った副長サンの、この上なく嫌な顔が想像できればそれでいい。
「早く行こ、沖田くん」
気分がいいので、その手を強く引いて甘味屋までの道を急ぐ。
「わ、旦那!」
慌てる顔も可愛らしい。
吃驚しながらも、転ばないように一生懸命ついてくる。
握った手の温かさに目を細め、銀時はさらに足を速めた。
20071017 itsukiyo
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