花火に滲む


「げー土方さん。こんな遠いとか聞いてねーです」
「うるせ。黙って歩け」
「ずっと行ったら灯台ですぜ」
「だからそこまで行くんだよ」

 海辺で花火を見ることができるという話を聞いて、半ば無理やり総悟を連れ出した。
 二人とも勤務時間を終えていたので、文句を言われても聞かなかった。
 ロープを無視して防波堤を進むと、人気が無くなって周りは海ばかり。
 端まで来て、やっと座ることができた。
 土方の横にちょこんと座る総悟を見ると、怒っているふうでもない。
 ホッとしながら煙草に火を付けた。
「コンクリはまだあったけーですね」
「昼間、暑かったからな」
 それでも夜風の涼しさが気持ちいい。
「まだ始まらねーんですか」
「もうちょっと」
「……アンタがあんまり歩かせるから、足いてーや」
「知るか」

 ここは隠れた花火観覧スポットだった。
 対岸から打ち上げられた花火が、真上に見える。
 夜風に吹かれていると、派手な音が開始を伝えた。
 どん、と腹の底に響くような音がして、夜空に眩しく円を描く。
 中でも五寸玉はそれは大きく、二人の頭の上で花開いた。
 総悟が目をまんまるにして、空を見上げている。
 口が半開きになっているのが可笑しくて、土方は眼を細めた。
 周りに誰もいないので、こんな姿も自分だけのものだ。
 土方は満足そうに煙を吐いていたが、膝のあたりがもぞもぞするのに気付き、次いでぎょっとした。
「な、ちょ、おま!」
「首がいてーんでさ」
 胡坐をかいていた筈の足を勝手に伸ばされ、腿のあたりに頭を載せている。
 なんだこれ。膝枕か。
「おー。ちょうどいいですぜ土方さん」
 自分の足の上で、花火を見ている総悟。
 大きな瞳は花火を映してキラキラ輝いているし、口も相変わらずの半開きだ。
 どん、と新しいのが上がるたびに、小さく歓声をあげている。

 空には花火。膝には総悟。
 海面に映った光がゆらゆら揺れる。
 この瞬間の何もかもを覚えておこうと土方は思った。





20101129 itsukiyo


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