そんなことは分かっている。
だから放っておいてほしいのに。
「アンタ、一体何なんです」
「うるせえよ」
だから、だから何なんだ。
離してほしい。
その、腕を。
「離せよ、土方さん」
「うるせえって」
先刻よりもっと力を込められて、腕は痛いし振り解けないし、沖田は泣きたくなった。
つまらない悋気だ。分かっている。
土方に女が何人いても、それで自分との約束をいくら反古にされても、そんなことは仕方のないことで今更わめきたてるほどの事でもないのだ。
自分の中で土方がどれほど大きな位置を占めているのか、考えたくないくらいだった。
幼い頃から土方の憎たらしい背中を嫌ほど見てきた。
その真っ直ぐな、決して振り向かない大きな背中に焦がれてきたので、想いは常にこちらからの一方通行で、あっちからの矢印は無いことは端から重々承知だ。
それはもう仕方のないことだ。
悔しくて泣いても、それはもうどうにもならないことなのだ。
そう、分かっている。
分かっているつもり、だったのに。
「もういいですから、離して下せェよ」
「よかねェだろ」
「俺気にしてねェから。土方さんが約束やぶるのなんていつもの事じゃねーですか。だからもう」
このままだと涙がこぼれそうだったので、必死で抵抗する。
歯を食いしばってがんばってはいるけれど時間の問題だ。
約束すっぽかされた挙げ句、どうせ女とよろしくやってた悪びれもしないそいつの目の前で拗ねて泣くなんて、惨めすぎる。
早くこの場を逃れて一人になりたかった。
「悪かった」
「え」
総悟は目を見開いて、動きを止める。
「悪かったよ、総悟」
そんな謝罪の言葉、これまで聞いたことがなかったので驚いた。
「・・・・・」
どうしていいかわからなくて黙っていたら、頭をくしゃっと撫でられる。
「土方さん?」
土方は困ったように笑った後、総悟をその場に残し、そのまま行ってしまった。
総悟はその背中を見送る。
いつもいつも、自分を置き去りにして遠ざかっていく背中。
「謝るくらいなら、すっぽかすなってんだ・・・」
頭を撫でた大きな手の感触を思い出す。
悔しくて悲しくて泣きそうだったくせに、その感触はどこまでも甘やかに感じられた。
それが更に総悟を切なくさせる。
「土方さんのばか・・・・・」
つぶやいても、甘さと切なさは消えることがなかった。
「・・・・・おれはもっとばか」
それはこの先もなかなか消えそうもない。
そんな予感がして総悟は絶望的な気持ちになった。
20071017 itsukiyo
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