こう暑くてはやっていられないと、抜け出してきた屋上。
日陰になる場所には丁度良い風が当たり、昼寝をするには最高だった。
軋むドアを開けると、先客にはいつもの眼帯男。
「よォ」
口の端を少し上げて笑う。
高杉のいつもの笑い方だ。
「またアンタですかィ」
こちらも自然に口が緩む。
この場所を見つけた時に、既に高杉はここを馴染みにしているようだった。
サボりの時間が合えば、沖田を追い返すでもなく、馴れ馴れしくするでもない。しかし話しかければ適当に答えるゆるさが気に入っていた。
「ここ、座りますぜ」
一人分の空間を作って隣に座った。ちらと視線を寄越すのが承諾のしるしだ。
沖田は遠くに目を遣る。
ここは日陰だが、日向は暴力的な眩しさだった。
空の青も随分とはっきりしている。
眼を閉じると、授業の声や物音が遠くに聞こえた。
「おい」
珍しく、眠りそうな様子の沖田に声をかける。
「ん……」
とろんとした目蓋を開けると、目の前に黄色い小さな箱が見えた。
それは随分と昔から見慣れた、甘い。
「やるよ」
どうやらくれるらしい。
受け取ると、そのキャラメルの箱は開封済みで、重さから察するに半分ほどは既にない。
「どしたんでィ」
急にこんなのくれるなんて。
ガムやシュガーレスの飴などは、何度か譲り合ったことがある。
しかし、キャラメルなんて甘いものを、しかも箱ごと。
「……今日」
「?」
「誕生日だろ」
「……」
なんだ。
なんだなんだ、これは。
急に自分の頬が上気するのがわかった。
「朝、銀八が言ってた」
「……そうですかィ」
確かに今日は沖田の誕生日だったが、だからといってこれは。
どうにも心もとなくなってキャラメルの箱を振ると、カタカタと小さく甘い音がした。
全く高価でもなければ特別でもないこのキャラメルだったが、沖田には大きな意味を持つものだ。高杉はどうだか知らないが、少なくとも沖田にとっては。それまで注意深く保っていた二人の距離を、こんな風に断りもなしに縮めてくるなんて反則だ。
「……あ、ありがと」
一応礼を言う。
「食べかけで悪ィな」
高杉はもう視線を外して、遠くを見ている。
動揺しているのは自分だけかと思うと、やるせなく口惜しい。こんな気持ちにさせる目の前の男が憎らしかった。
「アンタがこんな甘いの食べてるって、なんか意外」
「……」
高杉は外から見ればどう見ても立派な不良で、キャラメルなどという可愛いものを携帯しているとは想像もできない。
「甘いの、嫌いじゃねェんだ」
「ふうん」
実は甘いもの好きなのか。
変なやつ。
今まで隠していたのか、と考えて、沖田は首を振る。
いやいや。隠すも何も、そんな近い関係じゃなかっただろう。ただ、サボり仲間で、一緒にいると心地よくて、ただそれだけの。
それが沖田の中で徐々に大事な空間になってきていたのは事実だ。
失くしたくなくて、二人の間の空気が変わらないように注意深く振舞ってきた。
屋上に行けば高杉がいる。
二人で座って、風が吹いて、ちょっと話して。
なにも変わらなくていいと思っていたのに。
「……てか、好きだ」
「わかりやしたから」
キャラメル好きのカミングアウトはもう十分だ。
高杉の嗜好に急に詳しくなってしまった。
「じゃなくて、お前が」
「はい?」
これ以上ないほど見開いた沖田の眼が、青空を映した。
きらきらして美しいなと高杉が思っていることなど、沖田はまだ知らない。
20100708 itsukiyo
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