メモ0505


「お誕生日おめでとうございやす」
「は?」
 土方がぽかんとして総悟を見つめた。
 屯所の廊下でいきなり沖田に捕まったかと思うと、そんなことを言われて呆気 にとられる。
 相変わらずの忙しさに、身体は廊下を走り、頭は次の仕事の段取りをしていた 所だったのでなおさらだ。
 何のことだか分からなかったが、そんな土方の様子を見て呆れたように沖田が 言う。
「やだなあ土方さん。自分の誕生日じゃねーですか」
「・・・・ああ」
 やっと得心がいき、頷いた。
 今日は土方の誕生日だ。
 目出度く祝う歳でもないので、すっかり忘れていた。

「そいやそうだった。今日じゃねーか」
「また一つオッサンへの階段を登ってしまいやしたねィ。可哀想に」
 にこにこと、顔だけは可愛らしく微笑みながら沖田は土方を覗き込んだ。
「うるせえよ」
 言いながら、土方は沖田の頭にぽんと手を置いた。
 隊務の事はすぐに忘れるくせに(そもそも憶えようとしていない節がある)、 つまらないことはしつこく憶えている。
 記憶がメモの上書きならば、こいつの頭は、変更を保存しますか、いいえ、で クリックばかりなのではないか。
 そんでごく限られたメモのみ貼りっぱなしの状態。
 メモの枚数は少ないに違いない。メモを入れる引き出しの数も。
 ああ、でも。

「お祝いしやしょうよ。俺久しぶりにいい肉食いたい」
 頭の上に置かれた手に髪の毛をぐしゃぐしゃにされながら、総悟は構わない。
「俺の金でか」
「炭で焼くやつがいいなァ」
「バカ高いあの店でか」
「だってお祝いだし。ねェ、土方さん」
 明らかな下心はいつもの事。
 当然のように自分持ちなのには今さら腹も立たない。
 なにより気分が良かったので、沖田の言うままに承諾する。
「じゃ、後で!」
 霜降りに心躍っているのか、沖田は笑顔全開でうきうきと去っていった。
 土方がぐしゃぐしゃにした髪の毛がそのままだったが、それもまた可愛らしか ったのでわざと指摘しないでおいた。

「たんじょうび、か」
 あの子どものメモの何枚かには自分の事が書いてある。
 副長の座をよこせとか、土方コノヤローとかそんなのばっかりだろうが、
 それに混じって土方の誕生日のメモも確かにあるのだ。
 そう考えると、どうにも甘やかな気持ちを押さえきれず、笑みがこぼれてしま う。
 これだから、いつまで経っても側から離すことができない。
 土方はポケットからタバコを取り出すと、火を付けた。
 深く煙を吐き出し、ゆるんだ頬を戻そうと口元に力を入れてみた。
 夕方までに一仕事終えられるよう、再び隊務に勤しむことにしよう。
 なにしろ誕生日だから。


 あの子どものメモに書かれてある、記念すべき誕生日。


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