「ちょっと、沖田さん!」
縁側の下で聞いた声は山崎のものだ。
「なんでィ」
よいしょと腰を上げて、山崎を見る。
胸には灰色の猫を抱えて。
隊服でなく普段の萌葱の縞だから、その姿は18の総悟を余計幼く見せた。
「あれほど言ったでしょう、生き物はダメだって」
「違う。遊んでただけでィ」
どうだか。
灰猫は腹が太くなっている。
中に子猫が入っているのは一目了然だ。
「台所から牛乳がなくなったって言ってましたよ」
「ふぅん。知らねェな」
「沖田さんの手が引っ掻き傷だらけになってますよ」
「そうかィ?気付かなかった」
「……沖田さん」
「ん」
「沖田さん」
「……」
だんだんとうなだれていく様子は、童顔のうえ可憐に見える。
普段は怖いものなしのドS隊長さんだが、このような日常のふとした合間に素顔を見せた。
ただその顔を見ることができるのは、ごくごく限られた者のみであったが。
「座ってください」
「……」
縁側に並んで座る。
総悟は灰猫をかかえたままで。
猫は隣の山崎に目を遣ったが、すぐ興味なさそうに総悟の腕に頭を預けた。
「どこで拾ってきたんです?」
「拾ってない」
「沖田さん」
「……縁側の下から声がした」
「そうですか」
「……文句あるかィ」
よく野良を餌付けしては怒られた。
だが怒られても怒られても、総悟はよく動物騒動を起こした。
後の始末をつけるのは決まって山崎である。
新しい飼い主を探したり、それまでエサの世話をしたりトイレのしつけをしたり、
結構大変なのだ。
誰が好きでやるものか、といつも自分では思っているが、周囲の意見は「山崎は面倒見がいい。っていうか沖田さんを甘やかしすぎなんじゃないですか」だったりする。
そんな心持ちでやっている訳では……ないといいたいところだが。
「生まれるまでですよ」
「え」
「子猫が生まれたら、それぞれ飼い主さん探しますからね」
「……わかった」
総悟が申し訳なさそうな、寂しそうな顔を見せる。
ちょっとした眼差しや声の変化で山崎には分かる。
そんな表情を見せるのは決まった者にだけだ。
その中に自分が含まれていると思うと、心臓の音が少し早まる。
「だから、それまで世話していいですよ」
いや、世話をするのは自分だが。
「ん。世話する」
総悟の世話をする、は可愛がることなので、結局山崎は自分がめんどくさい世話をするから、あなたはその猫をじゃれつかせたり撫でたり遊んだりして構いませんよ、と言ったも同然なのである。
あーあ。
それでも。
「それと!」
「ん?」
「野良猫に引っかかれた傷は治りにくいですからね。ちゃんと手当しないと。そうい
う時はすぐに俺に言ってください」
「ん……」
「自分でできないでしょう?傷が局長や副長に知れたら心配なさるでしょう?」
「……わかった」
総悟の体調に関して山崎は妥協しない。
いつも強気に出られて総悟は違和感を感じながらも頷く。
また、猫に関して総悟が頼るのは山崎しかいないのだから仕方がない。
その仕方のなさに山崎は誇らしさを感じている。
きっと他の誰にも見せない我儘だ。
決まった者にだけ見せる頼りなげな表情。
そんな自分のポジションに感謝して。
きりりとした(自分比で)声で言いながら。
「だから副長や局長には内緒ですよ」
「………」
人差し指を口にあてて、真剣なまなざしで言う。
総悟は山崎の様子を上目遣いで伺って、合点がいくときゅっと腕の中の灰猫を抱きしめた。
「ザキ、ありがとな」
少し笑って、小さく言う。
普段と違う、可愛いモードだ。ツンデレの王子様のごくごくわずかなデレの部分。
山崎がこれに弱いこと山の如し。お願いは悉く聞いてしまうことになる。
「………生まれるまでですからね」
「わかってらァ」
それでも嬉しそうに猫を抱いて縁側に座り直す。
陽だまりの中でその様子はきらきらと山崎には眩しかった。
「餌、持ってきましょうか」
「頼まァ」
「そこにいてくださいね」
「うん。わかった」
きょとんとした瞳は笑っているようでもある。
本当に本当に珍しい素直な総悟とのやり取り。
なんでもないような顔をしていたが、山崎にはかけがえのない時間だ。
雑用をなんでもしていれば、こういう役目にもありつける。
自分のポジションがありがたい一瞬だった。
「山崎ィ、牛乳も!」
「はいはい」
こうして、総悟は猫を甘やかし、山崎は総悟を甘やかし、猫は総悟になつき、山崎にもなつき、生まれてくる可愛い仔猫を断腸の思いで里子にやるのである。
なんてわかりやすい行く末。
でも足取りは軽く。
総悟の猫に気付くのは自分しかいないし、頼るのも山崎しかいない。
そんな役得は誰にも譲るつもりはないから。
「牛乳、あったかな。あと古い毛布と……」
厨房へと向かううち、猫の世話で頭がいっぱいになっていく山崎だった。
20110313 itsukiyo
リクエストをいただきました、匿名さま、ありがとうございました!!
山沖、どうだったでしょうか。かっこいい山崎を目指していたのですが、
結局猫を可愛がる総悟さんを可愛がる山崎、みたいになってしまいました。
目標を達成できていないと思いますが、捧げさせてください?!!
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