「あー、沖田くん?」
「へーい」
携帯にかかってきた声は、雑音に紛れてやや遠い。
「ごめんごめん沖田くん。待ってるよね?まだ待ってるよね?」
「はァ……もう待ち合わせかなり過ぎてやすが」
そうなのだ。
本日は昼から非番でデートの約束を取り付けていた。実はものすごく楽しみにしていた沖田である。
しかし待ち合わせのコンビニで立ち読みしていたが、相手が来ない。
そりゃ沖田だって、5分や10分の遅刻でガタガタ言うほど細かくないが、いつもだったら自分が来る前に嬉々として待ってくれている銀時に30分以上待たされているとさすがに不安になってきていた。携帯にかけてみようかどうしようかと思案していたところへの電話だった。
「どうしたんですかィ?」
「……いや、ごめん。ホントにごめん」
「なに。今日は中止ですかィ」
「違うんだよ!違うの!……あのね、もうちょっと待っててもらえないかな?」
「ハァ?」
「……ダメ?」
「……何で。理由は」
要領を得ないので、だんだんとイライラしてくる沖田。声のトーンが低くなる。
「……あのね、ごめんね。あの、今ちょっと……あの、アレが当たってるんです」
「はい?」
「ものすごーく当たりが来てるの。あともう少し出そうなの。今やめるとすごく勿体ないの」
「………アレって」
「………あの、ごめんなさい、アレです。銀の玉が出るやつ」
受話器に向かって、盛大に溜息をついてやった。
「どこの」
「すぐ近くの」
「……ふうん」
「すみませんすみません沖田くん。でもこれ終わったら、久々におごってあげられそうなんで頑張りたいんですけど……って、ダメ、だよね、やっぱり」
「………」
ああ。
違う溜息が出る。
「旦那」
「……ハイ」
「あとどんくらいかかりやす?」
「あとちょっと。コレ当たり来やすいけど、長くないやつだから」
「……」
そんなこと言われても知りません。
「あの、よかったら隣来て打ちますか沖田くん」
「結構です」
「……待っててくれる?」
「待ちやすよ」
「ごめんね」
「……すごいの、おごってくれるんでしょうねィ」
「そりゃもう!今日はなんでもいけそうよ、銀さん。夜まで全部まかせて!」
嬉しそうな声に、我慢しきれず吹き出してしまった。
しばらく笑っていると、受話器の向こうからホッとしたような声が聞こえる。
「そのまま、待ってて。勝ち誇った顔で迎え行くから」
「へーい」
携帯をしまって顔を上げると、コンビニのウインドウに映る自分に気付く。
頬染めて、嬉しそうだ。
あんな、パチンコで遅れるようなロクデナシの彼氏に待たされて、こんな嬉しそうな顔してるんだ。
なんだか顔が赤くなった気がして、慌てて首を振る。
しかしそんな仕草まで恥ずかしくなってきて、急いで雑誌に手を伸ばした。
15分後、デート資金を持って現れた銀時は、宣言通り勝ち誇った顔をしていた。
「いい子で待ってたので、すんごいデートにして下せェよ」
通りを歩きながら沖田が言うと、銀時は立ち止まる。
「あーもう。まかせとけって」
と、ギュウと沖田を抱き締めた。
ここはかなり公衆の面前なので、チュウは物陰でしてくだせェと言うと、いそいそと路地裏に連れて行かれた。さっそく濃厚なやつで沖田を翻弄している銀時は、いつもより確実に張り切っている。
自分のおごりということで盛り上がっている銀時には、いじらしいというか可愛いというか、なんだかいつもと違う輝きがあった。常日頃の沖田のおごりデートでは見られない姿だ。銀時はそういうことは気にしないものと思っていたが、やはり男の甲斐性が発動されると嬉しいものなのだろう。
その後、浮かれたデートのフルコースを堪能した沖田は、パチンコも悪くないなァと思うのであった。
まあ銀時のパチンコ運はおおむねよろしくないので、次回はいつになるかわからないけども。
今日の銀時も面白かったが、やっぱりいつもの銀時が一番いいので、沖田は銀時のパチンコは勝っても負けてもいいやという結論に達した。
20080709 itsukiyo
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