「旦那ァ」
「なあに沖田くん」
待ち合わせのコンビニを出て、夏の終わりの大通りを歩く。
銀時は午後の日差しの強さに閉口しながら歩いていたが、隣の沖田が腕を組んでくると気温のことなどどうでもよくなり、幸せを噛みしめていた。
「ねェ、旦那」
「だから、なに?沖田くん……って、うわ!」
腕を組んできたかと思うと、沖田は銀時の胸に顔を埋めてきた。
ええ、そんな……嬉しいが、公衆の面前で!?そこら辺の阿呆なカップルのように、公道で抱擁か。うんそれも悪くない、などと思いつつ、その身体を抱き締めようとすると、沖田が顔を上げて言う。
「旦那、またパチンコ行きやした?」
「はい?」
沖田は再び、銀時の胸や腕に顔を埋め、くんくんと匂っている。
犬か。
とびきり可愛いカット済みのポメラニアンか。
「パチンコ屋の匂いがする」
「え、なに?俺くさい?」
「うん。パチンコ屋の匂いがしますぜ。行ったでしょう?」
「……いや、当たりですけど。うそ。くさい?」
「煙草と、なんかこう独特の匂いがしやす」
「沖田くん、鼻いいんだ」
まだくんくんやっている沖田の頭頂部に手のひらを乗せる。
そうだ。今日は新台入荷だったから朝イチで並んだ。しかしすでに猛者たちは既に長い列を作っており、出鼻を挫かれた銀時だった。よって午前中は芳しくないままだったがキリをつけて、沖田との待ち合わせ場所に向かったのだった。
「くさい銀さんでごめんねー」
沖田の髪の毛をぐしゃぐしゃかき混ぜる。
「いえいえ、どういたしまして」
「そりゃどうも」
沖田が顔を上げる。
「んー、でもアレです旦那。くさいっていうか、俺ァ、なんか」
「なに?」
「煙たくない旦那の匂いが好きっつーか」
「……」
「ふつーの時の旦那の匂いが好きなんで……うわっ」
なにこの子!!
銀時は沖田をがばと胸に抱く。
「旦那旦那、苦し…」
公衆の面前だが、関係ないね!
なんて言った?なんて言ったのこの子!!
「沖田くん」
「へい」
息苦しそうに沖田が返事をする。
「ふつーの時の俺の匂いって、どんな匂い?」
「んー、どんなって」
「どうよ」
「……旦那の部屋とおんなじ、なんかドキドキする匂い」
ひー!!
やめてこの子!!
銀時はたまらなくなって、沖田にキスしようとした。
が、沖田は銀時の顔を手のひらで力強く押し戻す。
「ふぁ?なんで?」
「でも今はスゲー煙い。匂いとれるまで、ちょっと待ちやしょう」
にィ、と悪そうな笑顔を浮かべて沖田は言う。
そんな顔も可愛いのだけれど。
心から残念そうに銀時は頷いた。
公道で熱く抱擁する準備はできていたのだが、仕方がない。
「旦那ァ」
「ハイ……」
「甘い匂いになるように、団子屋でも行きませんかィ?」
「りょーかい」
煙いとかいいながら、沖田が再び腕を組んでくる。
「今日は俺の奢りでしょう?」
当たってないのはお見通しとばかり、悪戯っぽく笑う沖田に苦笑いで返す。
「そーそー。お願いしますね隊長サン」
「合点でィ」
見上げるようにしてにっこり笑う沖田は心底可愛い。
奢っても奢られてももうどうでもなんでもいい。
こういうの骨抜きっていうのだろうか。
そんなことを思いつつ、パチンコ屋くさい銀時は、やはり幸福感に包まれながら夏の大通りを歩くのであった。
20081108 itsukiyo
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