「へくちゅん!」
「うわーかわいーくしゃみ」
盛大なくしゃみをした総悟が振り向くと、ニヤニヤと笑う銀時がいた。
最近、往来でこんな風に顔を合わすことが珍しくない。特にかぶき町では。
「また旦那ですかィ」
呆れたように言って、総悟は鼻をすすった。
「うん俺、俺。ねえ沖田くん、それ風邪じゃね?」
「大きなお世話……へくちゅん!」
「ほらほら。ほっぺも赤いしね」
大きな手が総悟の頬を包む。
びっくりしたのとどっきりしたので混乱した総悟は、目を丸くして銀時を見返すしかない。
「……だんな?」
「ん?」
なんで最近、頻繁に顔を合わすのか、なんで嬉しそうに声を掛けてくるのか、なんで簡単に触れてくるのか。
銀時に聞きたいことはたくさんある。
けれど明かしてほしくない気もする。
「……何でもねェです」
「そう?」
銀時は意味ありげに笑う。
総悟の戸惑いを知っていて、でも答えは寄越さないとでもいうように。
なんだそれは。大人の余裕か。
銀時のすることに揺さぶられるのは自覚している。けれどそれが何に起因するのか、答えを出してはいけないような気がした。
自分と他人の間にははっきりとした線が引かれている。それは屯所の同僚はもちろん、土方や近藤との間にさえ言えることだ。甘えるのもお茶目をするのも、ここまでと決めたその先には進めない。際限のない情のようなものは、姉との間にはあったが、それ以後絶えた。
銀時との間にも同じことが言えると思っていたのに、この男はひょいとその線を飛び越えて自分の中身を覗いてからまた出ていくようなところがある。
失礼極まりないと怒ってもいいところだが、不思議と嫌ではない。ただただその距離感に振り回されるばかりだ。
「熱もあるんじゃね?」
こつんと額と額を合わせるようにして銀時が言う。
ほら、これだ。
油断するとどこまでも境界線を越えてくる。
「うー……」
喉が焼けつくように痛み、頭も重くなってきた。
やっぱり風邪かなとぼんやりしていると、銀時が手を握ってきた。
「なにすんでィ旦那」
「おでこも手のひらもすげー熱いよ。お家まで送ってあげる」
先刻までの余裕の表情が消え、心配そうな顔になる。
それを確認すると総悟は少しザマミロという気持ちになった。
こっちも余裕で返そうと思いながら、意識は朦朧としてくる。
「いい?沖田くん。ちゃんとつかまっとけよ」
「んー……」
ゆらゆら揺れる。
視界も心も。
銀時におんぶされて屯所に戻ったと聞き、さらに心が揺れるのは後日の話。
20101216 itsukiyo
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