「あれ」
目を覚ました沖田の目に、懐かしい副長の姿が映った。
「...重たいと思ったら、なんですかィこの人」
身体を起こすと、居眠りをしている土方の顔が見える。
土方が眠りながらも眉間にしわを寄せているのが分かると、笑いがこみ上げて
きた。
「働き過ぎでさァ。ばかですね......相変わらずだ」
一目で疲れているとわかる寝顔だった。
どうせ激務に追われているのだろう。なんてわかりやすい。
沖田は、そっと土方の頬に触れてみた。
起こさないように、細心の注意を払って、そっと。
温かい。
土方からは、健康な人間が送る忙しい日常の匂いがする。
真選組の、いつもの匂いがした。
かつて確かに自分もそれに包まれていたのに、今はとても遠くなってしまった
。
沖田は確認するように、指の先でゆっくりと頬の線をたどる。
覚えておこうと思った。この人の姿も、匂いも、頬の感触も。
「......ん?」
土方が目を開けた。
起こしてしまったことを残念に思いながら、沖田は何事も無かったかのように
手を戻す。
「起きやしたか」
「いけね。......寝てた」
不覚を恥じるようにがばと起き上がり、頭を振った。
「見舞いに来て居眠りしちまうなんて、さすが土方さんですねィ。常識ってもん
がねえや」
「うるせえな。気がついたんなら起こせよ」
「驚きやした。この人ったらなんて図々しい事を」
呆れるように言うと、ばつが悪そうに黙る。
「それで、土方さん。何でわざわざアンタが?」
「.......」
「よっぽどの、用でしょう?」
そんなに疲れていてまで、ここに来たのは。
半年、姿を見せなかったのに。
土方の思惑などお見通しだとばかりに、沖田は続ける。
「総悟...」
「近藤さんと同じ用件なら、俺の答えは決まってますぜ」
「総悟、お前...」
「手術の件でしょう?」
分かってましたよと小さく笑う。
「受けたくありやせん。失敗して死ぬのは嫌です」
「失敗しないかもしれねえだろ」
「成功例は少ねえです。そんな危ない橋、ごめんでさァ」
「でもやらねえと、治んねえんだよ!」
立ち上がり、思わず大声を出す。
動じることなく土方を見据える沖田。
室内に静寂が戻ってくると、土方は次第に居心地の悪さを感じた。
お前は異質なものだと、白い壁が土方の存在を拒む。
近くにいるはずなのに、総悟との間には酷い隔たりがあった。
なんだろう、この距離感は。
「......土方さん。どんなに言われても俺の気持ちは変わらねえです。受ける気はありやせん」
静かに、しかしきっぱりと言い切る沖田に、何も言えなくなった。
失敗だ。
近藤さんを笑えない。
「......わざわざ来てもらったのに、すまねえです」
もう帰れと促すように沖田は言う。
「......総悟」
今日はもう会話にならない。日を改めて、と土方が算段していると。
「土方さん、何回来てもらっても答えは同じなんで」
冷たい声で、沖田は言い放つ。
「もう、来ないで下せえ」